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第2回「無題パート2」

ガチャガチャ ダァー ものすごい勢いで姉がミシンを踏んでいる。枕カバーを縫っている、それも目分量で。ガタガタ ジャーン あっという間に出来上がった。さっそくお気に入りの 少し大きめの長い枕を入れてみた。
「スポッ!」
上から入れた枕は みごとにすり抜けて床に落ちてしまった。
「ああ〜意味無いじゃん」
横で見ていた私がため息まじりで言うと
姉はまた黙々とミシンを踏み始め ダーっと二本のひもを作って、その枕カバーにくっつけた。
「ほれ!昌子 ワンピース作ったけえ着てみい。」
「エー!どう見たって枕カバーやんけ!」
ピンクの水玉の上と下にフリフリの付いた、枕カバーにひもを付けただけの 変則ワンピースを着せられる。
「おぅーかわいい。それ着て学校行ったら流行の最先端でかっこいいよ〜ん。」
姉は、得意顔で言う。
私は、それまでに流行の最先端は二着。布が足りなくなってへそが出るツーピースと右と左の丈がちがうズボンを着せられていたので慣れっ子ではあったが、枕カバーは少し勇気がいった。
当日 下町の公園には日が暮れるまで 子供たちがあふれ出て遊んでいた。
私は女の子とままごとをして遊ぶより、男供と 野球したり カンけりしたりして遊ぶことのほうが多かった。
ガキ大将も何の抵抗も無くすんなりと一緒に遊んでくれた。だから野球して打っても守っても この枕カバーは よく走った。
ブランコをこがすと180度 これ以上無理ってとこまでブンブン立ちこぎして、最後にジャンプ!草むらに枕カバーが着地する。かくれんぼしても、屋根転がししてもこの枕カバーはよく活躍した。
昭和38年 当時は皆が貧しい生活ぶりで 一年中同じ服の子もいたし ひじが抜けたセーター つぎはぎしてあるズボンなど 普通だった。だから、それがあたり前の事のように着ていた。
乙女心としては 少し心揺らぐものがあったけれども、皆と一緒に遊び回るには 全然関係のない そして全然関心の無いことだった。

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