江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第64回「お正月」(後編)  江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第64回「お正月」(後編)

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続き

ん?顔つきが変!青い顔して「おまえらなんぼか持っちょるか、金が足りん」と言うではないか
エー!そんなあ〜「逆立ちしてみい」
と言う父は冗談ではない凄みで私はあわてて逆立ちをした、姉はポッケの布を全部外に出した。
結局家に電話して不足分を持って来てもらうということで了解してもらった。
やれやれ さて皆がお金を持ってやって来る待ち合わせの小月駅まで歩いて1時間以上はたっぷりかかる。
つっかけ履きの私をふびんに思われたのかチップを弾んだ女中さんがこっそり父にバス賃を渡した。
風がピューピュー吹き抜ける寒い小月駅で私達は首を長くして待った。
待ちわびるていうのは寂しいもので冬の寒さと重なり心まで凍りそう
何本かの電車が過ぎて行き やっと長女、二女、三女が肩を怒らせて降りて来た。
私は姉の顔を見たとたん100年ぶりに逢えたような嬉しさと安堵感で胸が熱くなって今にも溢れそうな涙を必死で我慢した。
怒り狂ってる姉達はこんこんと父に説教をしているが明治生まれの頑固な父はすまぬの一言だけ発して後はうなだれるだけであった。
天国と地獄のお正月は後にも先にもあれっきりであるが いったい全体父に何があったのであろう。
急な大金が思わず入ったのか 母を亡くして寂しかったのか
優雅な上海時代の贅沢な生活をもう一度味わいたかったのか
正月料金の相場を知らなかったのか姉達がいくら聞いても何も言わず結局そのことは口を割らないまんま
とうとう墓場まで持っていかれてしまって解らず仕舞い。
父の思い立ったが吉日の楽天的な性格には困ったものだがその困った血は私の躰の中にも流れている。
宵越しの金は持たず 祭りごとが大好きで芸事にぞっこん。
後 先考えず情熱の思むくまま楽な方楽しい方にと体をゆだね 後で手痛いしっぺ返しを受けるという繰り返し。
なのにこの血は学習能力が無いのか又同じ失敗をしてしまう。
小月駅で姉達にこんこんと説教されてる父の絵は今の私が娘にこんこんと説教されてる図とまったく同じなのである。
血は変わらないなあ、これが血というものなのかなあ。
湯谷温泉にはあれ以来行ったことが無い。
娘や友人と温泉にはよく行くことがあるがわざわざそこを通り超して遠くの湯ばかりを選んでいる。
幼い時の恥ずかしかった思いが中々払拭しきれずどうしても足がそこに向かないでいる。
近くには名所も多く幕末の寄兵隊の故郷でもある。吉田松陰門下の高杉晋作の菩提も弔ってあり
、その歌碑には 面白き こともなき世に おもしろく と歌われている。
私ももう少し時間がたったら思い出の湯谷温泉に行ってみようっと。
宿の下のバス停で肩を落として座っている父その横の川べりで石を投げて遊ぶ私達。
待ち合わせの小月駅で電車が着くたび
サッと改札口の一番
前に出ていきバサバサの髪を吹き抜ける風にさらしている父も、
降りて来た姉が仏様のように輝いて見えたことも きっとすべて笑い話しにしてくれるよね。
きっとそうよね父ちゃん!

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