江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第34回「バス旅行」 江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第34回「バス旅行」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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今日は楽しい町内のバス旅行。昭和50年代の下町は活気にあふれ、人もうじゃうじゃいた。予算的にも余裕があったのか年に一度は総会を兼ねて日帰りではあるが、いろいろな所へ行けた。アルバムに映っている小学校低学年の私はどれも嬉々として満面の笑み。
大家族の我が家はいつも一番後ろの席を陣取っていた。車酔いする食堂一家は一番前の席。あとは飲み屋のママさんと従業員さん達でうめていた。自治会長の寿司屋のおっちゃんがマイクを持ってご挨拶しているのに、みんなピーチクパーチクてんでにしゃべって誰も聞いていない。
やっぱり日ごろ往生というかふんどしを外す癖が災いしてそうもいまいち押しが弱い。朝早くからの出発は夜が遅い連中にはつらいのか睡眠不足ですぐにあちこちで寝息が立ってくる。それなのにバスガイドさんは一人張り切ってご挨拶の後この場を盛り上げようとつばを飛ばし飛ばし歌を歌い始める。
「それでは皆さまもご一緒に歌いましょう〜♪幸せなら手をたたこう!♪」
「シ〜ン」
「幸せなら手をたたこう♪」
「シーン!!」
「幸せなら態度で示そうようよ、ほら皆で手をたたこう!」
「、、、、、」
バスガイドさん撃沈!仕方ない皆不幸なんやもん!
「ガイドさん、ええよしゃべらんでも。みんな疲れちょるけえ寝たいみたいやから」と自治会長が慰め
「あっそ!」はぶてこいたガイドさん、補助席をだして座り込んじゃった。

道中のトイレ休憩でバスが停まるとみんな目を覚まし袋物のおやつが前から配られてくる。受け取った人は後ろへ回していくのだが待てど暮らせど後ろの席にはまわって来ない。真ん中のママさんがパクッている。
「あれ!?ばれた!?おつまみにしようと思うちょった」そりゃばれるやろ。

目的地に着くとゆっくり温泉につかりおいしい料理が目の前に並ぶ。小学生の私にも大人と同じ料理がでるのでその頃景気が良かったのが伺える。宴会が始まる前に会計報告と次期自治会長の選挙があるのだが、ご馳走を前に誰も待てない。
「ハイハイ、おっちゃん、またやって!」チョチョイのチョイですぐ終わる。数字に弱く予算表なんて見たって分けわからず頭の弱い連中に人を選ぶ余裕なんてありゃしない。
お酒が入った帰り道は当然、皆大いびきで情緒もクソもない。そんな何もないケッタイな旅だけど、私はこのへんてこな旅行が大好きだった。なにより家族と一緒といううれしさもあったけれども、後ろの席から見渡せるいろんな人たちの人生、ドラマが見れて人間ウォッチングをしてるようで面白かった。

家族のぬくもりから一本筋が外れた分けありな人たちとの会合は少々毒々しく、長谷川町子先生のサザエさんよりもいじわるばあさんのような”くすっ”っと笑えるブラックジョークの世界が面白かった。
品性に乏しく、高級な匂いもしないけれども、着飾ることなく見栄を張ることもなく自分の人生を自分で切り開いていく力強さがあって気持ちよかった。

トルストイの名作「アンナ カレーニナ」の冒頭に書いてある「幸福な家庭はいずれも似ているが不幸な家庭はそれぞれ違う不幸を抱えている」というのを思い出した。とにかく皆しあわせになってガイドさんの「幸せなら手をたたこう〜♪」の歌に手拍子で答えたいものだ。

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