江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第28回「京都旅行」 江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第28回「京都旅行」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

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昭和55年。兄弟全員で母のふるさと京都へ墓参りに行った。母の骨を分骨しているお寺が町中から大文字焼きが催される山の方へ移動された為、墓参りを兼ねた、二泊三日の観光旅行。叔母を筆頭に兄弟八人と子供達、計15人の珍道中。

叔母と赤子連れの私。それと東京から来る長女が新幹線で残りの連中はワンボックスカーを夜中じゅう走らせ京都へ向かった。
せっかちな叔母は新幹線に乗っていても落ち着かず、新大阪を出たところで「降りるよ!」と腰を上げ、子連れの私を困らせる。もお〜

ワンボックスカーの方はもっと悲惨だったらしくへとへとな様子。車の後ろに布団をひきゆっくり寝て行こうと言うのに目を満月にし寝ないガキが一匹いる。長男、修んとこの幼稚園児、夏子である。人見知りが激しく、ピイピイ泣きわめく。泣きわめくだけなら仏の顔も三度で許されるけれども「うわ〜ん」と泣くと必ずシャ〜っとおしっこを漏らす。目をあわすと「うぇ〜ん」シャ〜のセットである。恐ろしくて触れられない。恐る恐る夏子の視線から外れるようにあっち向いてホイで顔をそむけるけどどうしても大人数の中に夏子が入ってくる。結局、京都に着くまで5,6回は泣きわめいたそうで寝不足のチャーリー姉さん心底言ったそうな「降ろせ!」と

京都の新しく建てられたお寺はまだ畳みも青くイグサの香りが鼻をくすぐり心落ち着く。静寂な中、神聖に母を祭ってくださっていることを仰ぎ、手を合わせた。天上の母もきっと喜んでくれたに違いない。

京都旅行の大イベントを終えた私達一行は、あとはもうダァーっと気が緩み、ぎゃーぎゃーわがまま言って次に行くところが決まらない。神社仏閣。ショッピング。宝塚。食べ巡り。じゃあ、食事でもしながら計画を練ろうというのに、今度は中華、日本料理、イタリアン、洋食、と又、又決まらない。もお〜

ああだ、こうだで決まったのがショッピングと宝塚。二つに別れて行動するということ。年が離れた兄弟では仕方ないか。ショッピングチームにわたしは付いていき自由な時間を楽しみ、疲れたのでお茶でもしようとデパ地下から上へ上がろうとしていたその時、目の前のエスカレーターに乗って降りてくる女の子がどこかで見たような気がする。はて?「のんちに似てるネエ、あの子」六女の娘、姪っ子の典子にそっくり。いまどき見たこともない刈り上げたおかっぱ頭がしゃれた店内から浮いてよく目立つ。あれ?「おけいやん」次に降りてきた子はまさしく田舎のフェロモン丸出しの典子の妹の佳子。その後ろにでっかい腹が見えてきた。メタボの六女、孝子。あらあら、泣き虫女王の夏子、修親子まで。

ど〜したあ〜!?宝塚行ったんと違うん?こんな都会の雑踏のデパ地下でばったり会うなんて、ぎゃおぎゃお!100年ぶりに再会したような騒ぎぶり。よく聞くと宝塚ファミリーランドは休園だったそうな。それにしてもびっくりするようなことってあるもんなんだなあ。

その日の宿はきれいな空気の嵐山近くの斬新なホテル。皆でお風呂につかり「幸せやね〜」と満悦してると、わが子ひろこも気持ち良いのかぷりぷりと黄色いウンチをだした。
「ありゃ!うんちしたよ、この子。えらいこっちゃ!」と皆、大慌てで洗面器でバシャバシャ黄色い湯をかき出すけど乳児のウンチは固形じゃなくて液体。いつのまにかうっすらと黄色い湯にしてみせた。大体、四女の明子姉が悪い。この人の大きな迫力のある目でひろこを見つめると、わが子はいつも「ウ〜ン」とキバッテみせる。まるで条件反射のように。その明子姉がだっこして湯に入ったんだもん。仕方がない!許してちょ〜だい!

そんなこんなでドタバタと騒やかな旅行ではあったが、大人数の手が足りて私にとっては楽な旅を送ることができた。たくさんの楽しい思い出ができ、又の再会を約束して私達は東と西に別れて家路に着いた。
それなのに、その半年後、三女のチャーリー姉さんが突然41歳の若さで逝ってしまった。まるで、母が連れて行ったかのように、あっけなく。

そんな訳で兄弟全員がそろった旅はこの京都旅行が最後となってしまった。あの時、私は子供を産んで二ヶ月ということで一人不参加と決めていた。京都のお土産をリクエストし、子供におっぱいを飲ませてると、なぜか無性に胸が熱く「行きたい」「行かねばならない」と思えてきて、家族にわがままを言って行かせてもらった。
今思うと、それが虫の知らせだったのかもしれない。きっと母がそうさせたのであろう。京都旅行の写真は皆、若々しく、いづれも美しいが、時が経った今はこの時と随分違う容姿になっている。
でもチャーリー姉さんだけはこの若いままで時が止まっている。老いたチャーリー姉さんなんて考えられないけど、生きていたら絶対ラスベガス賭博ツアーの計画を練っていると思うな。きっと。

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