江本昌子の「ぶちおきゃん!マチャコの思い出話」 第19回「歌」 江本昌子公式ホームページ

江本昌子の

著者:江本昌子

第19回「歌」

毎週木曜日更新

作者へのお便りをお待ちしてます。

        ↓

幼稚園中退。履歴書には書かなくてもいいのでよかった。
通園していた近くの幼稚園に「明日から行ってはいけんよ」と言われてもわからず、いつものように行っては父に連れ戻される。
そんな日が一週間続いた。
「なんでぇ〜」って聞いても「とにかく行っちゃあいけんそ」の一点張り。大きくなって分かったのではあるが、母の注射代の為 市から援助を受けなくてはいけなくなったのである。小、中学校の義務教育は問題はないが、幼稚園、高校は贅沢とみなされいけないのである。幼稚園児の私と高校生の三女チャーリー姉さんが対象となった。幼心に又幼稚園に行くと父に叱られるなあ「なんでやろう」と思っていた。園の運動場でお遊戯しているところとフェンス越しにうらやましく見ていた。「皆と一緒にわたしもお遊戯したいなあ」そう思ってるとポンッと肩をたたかれ振り向くと父が立っていた。一緒に帰る道、一言もしゃべらない父。
「ごめんね、父ちゃん。明日から絶対いかんけえ。母ちゃんのそばに毎日おるけえ」
覗き込むように機嫌を直して欲しくて言うと
「すまんのぉ、、、、」と、父は小さく口を開けた。

小学校は胸をはって通学できる。仮入学に簡単な入学テストがあった色盲検査や視覚検査など受けた。
先生が示される色のカードを何色か言い当てるテスト。赤、黒、青、と大きな声でハキハキと答えていく。次は茶色のカードをだされた。
わたしはまた大きな声で
「うんこ色!」と元気よく答えた。
仕方ない。幼稚園中退やし。

そしてクラスに分かれ、先生のお話を伺い「それでは歌って終わりましょう。夕焼けの歌です。」
と、言われ、オルガンの伴奏が始まった。フンフン。「夕焼け小焼けで 日が暮れてぇ〜♪」と皆は歌っているのに、わたし一人「夕焼け空は真っ赤っかぁ〜!♪トンビがくるりと輪を書いた♪」と、三橋美智也の演歌歌っちゃった。
仕方ない。幼稚園中退やし。

三女のチャーリー姉さんは学校に行けないことをいいことに成人映画をどうどうと見に行ったりして自由を謳歌していた。そんな時、文化祭があって姉は一日だけ登校してよい、という許可が出た。一、二年とそれまでオペラの独唱をしていたのもあるが、どうしてもチャーリー姉さんの本格的な独唱でないといけないと在校生が署名運動を起こしてくれて校長先生の大岡裁きで許可が出たのである。大役を果たした姉は練習した成果がだせて大満足。この時、文化祭の来賓で招かれていた市の音楽協会の会長さんのお目に止まった。その年行われた皇太子御成婚祝賀行事で市民の前で独唱しなさいと言われる。

結局私学というのもあるが、音楽の特待生扱いで復学が許され、姉は退学することなく卒業できたのである。市の有力者でもある音楽協会の会長さんには随分かわいがっていただいた。品格を絵に描いたような物腰のやわらかい穏やかなジェントルマン。大豪邸で催される演奏会でも姉はオペラを歌わせてもらっていた。人を動かす歌の力。文化は貧富に関係なく人の心まで動かされるものなんだ。幼稚園中退のわたしには、ちょっぴりうらやましかったけど、一生懸命努力している姉が素敵で光輝いていてうれしかった。

no alt string
no alt string
no alt string
nw&r TOP
江本昌子 TOP
人間味溢れる思い出話
Sale
宝飾品・ブランド品他